妹は体が弱く、親は彼女の看病につきっきりになることが多かった。私は病気をすることはほとんどなく、風邪を引いたとしても一晩眠れば体にあっただるさは消えてしまう。両親は毎日学校に通う私を褒めていたが、ちっとも誇らしい気持ちにはならなかった。二人の優しさを集めている妹がうらやましかった。だから私は海へ行った。昼間の海は青が美しく輝き、夕方の海は赤々と燃え、夜の海は冷たい闇の色。さざ波に紛れて涙を流しても親はすぐに駆けつけてはくれなかったが(波音が鼻をすする音を打ち消してくれるとなぜか安堵を覚えていた)、海はそばにいながらも放っておいてくれるので気が楽だった。妹は果てのない穏やかな青を見ることができない。この景色を独り占めできるのは私の特権だと思っていた。
人魚との出会いは、夏休みの自由研究のため、岩場で生き物を探していたある暑い休日のことだった。汗を流しながら岩の上を歩いていると、髪の長い男が岩にへばりつくように身を倒しているのが目に入った。具合が悪いのかと思い、すぐに駆けつけた。妹も気分がすぐれないと、ぐったりと床に横たわるのだ。見覚えのある姿に心臓が一瞬ひやりとしたが、さらに目を驚かせたのは男の脚だ。絵本の中で見た人魚そのものだった。私の足音に気がついたのか、男はゆっくりと顔を上げ、にこりと笑い、岩の隙間を指差した。
「見て! カニがいる!」
彼は世界中の海を旅しており、何ヶ月か前に偶然この海に寄ったのだそうだ。それからずっと海辺を漂っている。
夏休みの間は彼との交流で忙しかった。ほとんど毎日海に行き、彼と話をした。海辺の街の人間たちや今までに出会った水中の生き物の話、大きな船に轢かれそうになったアクシデントなどを聞いていると、まるで自分が大海原に冒険に出たかのように感じられるのだ。しかし、それも長くは続かなかった。夏休みの最終日、彼は他の海に行くと告げた。私は行かないでほしいと泣いた。妹のこと以外で泣いたのは久しぶりだった。人魚は言った。
「君は海に来るといつも泣いていたね。海を見ると悲しい気持ちになってしまうのかと思っていたけれど、僕が海やその生き物たちの話をすると、とても素敵な表情で笑ってくれたね。僕も楽しかったよ。海に来た時は、僕が話した世界中の面白いことを思い出して。君を笑顔にさせてくれることが、この世界にはたくさんあるんだ。君はこれからたくさん旅をするだろうから、いつの日か、君の話を聞くことを楽しみにしているよ。また遊ぼうね」
「元気でね」
震えた声で送り出すのが精一杯だった。家に帰ると、両親は妹の体調の回復を祝っていた。
あれから何年もの月日が過ぎ、妹の病弱そうな白い肌は真っ黒に焼けた。病気がちだった子供はその後健康への道を歩み始め、今ではライフセーバーとして活躍している。私は父親から海釣りに誘われたことをきっかけに、釣り人の仲間入りをした。海の生き物は好きだった。妹ほど泳ぎが得意ではなかったため、水とは仲良くしなかったが、どうしても人魚とのつながりを忘れられず、船に乗って海へと出かけた。釣りをしながら遠くを眺めたりすると、いつか彼とまた再会できるのではないかと考えることがある。しかし、吊り上げるのは魚ばかりで人魚ではない。お前は魚を釣ってもそんなに喜ばないなあ、と父によくからかわれる。
また魚を釣り上げた。私も妹も元気でいるのに、元気を分け与えてくれたはずの友人の安否はわからずじまいだ。私はすぐに水平線に目を戻した。
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